愛しのさびれ系ホテル

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鎌先温泉「最上屋旅館 自炊館」(宮城県白石市)

「お部屋もお食事もそれなりでございますが、本当によろしゅうございますか」

電話で予約した鎌先温泉「最上屋旅館」の自炊プラン。一泊二食7千円(税別)。インターネットの料金表にはあったが、ネット予約ができなかった。電話に出た上品な老婦人から「それなり…」と念を押された。

鎌先温泉は、宮城県白石市蔵王連峰の麓の谷底に5軒の宿が建つ。「奥羽の薬湯」「傷に鎌先」と言われ、六百余年の歴史がある。昭和の時代には自炊をする湯治客でにぎわった。半農半工のこけしの里弥治郎から、女衆がこけしやおもちゃを背負い、湯治場の部屋から部屋へ売り歩く「鎌先商い」があった。今では自炊の宿は一軒だけ。

9月の三連休の前日の金曜日、まもなく日暮れの時刻に宿に着いた。玄関には「日本秘湯を守る会」の提灯が灯る、木造の立派な日本家屋。正当派の旅籠屋造り(勝手に命名)である。ポスターになりそう。と思っていたら、本当になっていた。

玄関のある本館からスペシャルな名前のついた特別室、普通の名前のスタンダードルームの前を通り、渡り廊下を渡って、階段を下りた「自炊館」へ案内された。今夜のお部屋は211号室。特別な名前はついていない、ナンバールーム(でもホテルって、ほぼ全室がナンバールームだ)。6畳ほどの角部屋、ジャパニーズバルコニー付のコーナールーム。向かいには炊事場。


さっそく「秘湯」に行く。茶色いにごり湯で温度はぬるめ。源泉かけ流し。じんわり効くタイプに違いない。少し大きめの岩風呂とこじんまりした風呂が、男女別に入れ替わる。廊下には洗面台がズラリと並び、湯治場のにぎわいを思わせる。が、本日はもう一組しかお客様がいないようで、ほぼ貸切り。

食事は部屋食。スポーツウエア風の年配の仲居さんがお膳を運んでくる。帆立の稚貝の酢の物、茸の和え物、野菜の炊き合わせ、豚肉と野菜の陶板焼き、漬物、味噌汁とご飯に果物。やや寂しいものの、値段を考えたらこれでじゅうぶん、揚げ物もなくヘルシーだ。おひつにたっぷりのご飯、程よい味付け。食事の後はやることもない。テレビは百円で2時間、携帯の電波もない。帳場の脇の喫茶コーナーや上級室にはWIFIがあるらしい。コッソリと散歩に出るが何もない。早々に休むことにした。散歩の間に敷かれていた寝具はこざっぱり。あっという間に眠ってしまった。

朝風呂は昨晩とは違う湯舟に入り、部屋で朝ごはん。ごくシンプル。お膳でいただく食事は、ままごとみたいだと思った。朝の散歩は、隣の宿の裏山まで。木造の立派な文化財的な建物、客室はコンクリート造りで、ちょっとアジアの島リゾートを意識した高級そうな宿だった。素敵だけれど、やっぱり「自炊館」のほうが落ち着く。

鎌先温泉 最上屋旅館 湯治プラン 一泊二食付 7,710円(消費税・入湯税込)★★★☆☆(2017.9.15-16) 

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